人形佐七捕物帳004
佐七の活躍で小気味よく進行していきます
「山雀供養」（横溝正史）
（「完本 人形佐七捕物帳一」）
春陽堂書店
江戸の町を騒がしている
盗賊･紫頭巾。
その正体を、佐七は
芸者･山雀のお万とにらむ。
その紫頭巾から、
武家･近江喬四郎宛に
犯行予告状が届き、
佐七は屋敷に張り込む。
紫頭巾が現れたとき、
喬四郎の妻が胸を刺されて
殺害される…。
横溝正史の人気時代物、
人形佐七捕物帳の第四話です。
前話で女房をめとった佐七ですが、
いきなり甚五郎親分から
｢少々ヤキが廻ったな｣
｢女房を持ってから
いささかおとなしくなった｣と
揶揄される場面から始まる
このエピソードも、佐七の活躍で
小気味よく進行していきます。
【捕物帳〇〇四｢山雀供養｣】
紫頭巾
…武家の奥方に悪戯をする盗賊。
女性らしい。
近江喬四郎
…武士。お万とよりを戻そうとする。
山雀使いのお万
…芸者。二十六七。喬四郎の元妻。
お君
…喬四郎とお万の娘。
里子に出した先で亡くなる。
お関…お君の里親。
数江…喬四郎の妻。
斑鳩三平…喬四郎に仕える用人。
お美智…近江家の使用人の娘。
お美乃…水茶屋の娘。
神崎甚五郎
…南町奉行付与力。佐七を監督する。
佐七
…御用聞き。人形佐七と呼ばれる。
本作品の味わいどころ①
謎の女盗賊･紫頭巾の小気味よさ
押し込み強盗などではなく、
単純な物取り、しかも
偉そうにしている武家の奥方の持ち物を
盗み出すという、
この紫頭巾は盗賊というよりも
愉快犯といっていいでしょう。
なんとも憎めない存在であり、
由利･三津木シリーズや金田一ものには
絶対に登場しないキャラクターです。
できれば本作品以外にも
活躍の場を与えたいくらいです。
本作品では、以前に
｢芝の伊予屋の娘の嫁入り衣装が
ズタズタに切り裂かれた｣事件、
｢若い娘の銀簪抜かれ｣事件と、
二つが紹介されていますが、
これらの事件(やや程度の低い
事件ですが)を膨らませて
連作短篇作品集にでもしていれば、
さらに面白かったのではないかと
勝手な想像を膨らませてしまいます。
本作品の味わいどころ②
理知的少女･お美智の小気味よさ
起きたのは奥方の珊瑚の根掛け
(日本髪に用いる女性用の髪飾りの一種)
盗難事件と、奥方刺殺事件。
両者とも紫頭巾の仕業なのか？
またもや証拠を逃す佐七なのですが、
事件解決の手がかりを掴んだのは、
6歳の少女･お美智なのです。
｢盗難事件のからくり｣の証拠確保と
｢刺殺事件｣の決め手となる証言、
どちらもこのお美智の手柄です。
本作品の味わいどころ③
人情家･佐七の推理の小気味よさ
最後は佐七の人情的差配で決着がつき、
また、喬四郎とお万のよりも戻り、
めでたしめでたしで幕を閉じます。
それにしても横溝正史は
人物の設定が絶妙です。
多くの登場人物に
きちんとした名を与え、役割を与え、
繋がりを持たせ、
読み手の脳裏に立体的な人物像が
結ばれるように設計しているのです。
横溝は金田一耕助だけではありません。
ぜひご賞味ください。
※「完本 人形佐七捕物帳一」
収録作品一覧
羽子板娘
謎坊主
歎きの遊女
山雀供養
山形屋騒動
非人の仇討
三本の矢
犬娘
幽霊山伏
屠蘇機嫌女夫捕物
仮面の若殿
座頭の鈴
花見の仮面
音羽の猫
二枚短冊
離魂病
名月一夜狂言
螢屋敷
黒蝶呪縛
稚児地蔵
（2018.1.3）
〔｢完本 人形佐七捕物帳｣について〕
2019年12月から、春陽堂書店より
｢完本 人形佐七捕物帳｣が
全10巻で刊行されました。
佐七シリーズは全180作と
確定したようです。
すべて読破したいと思っています
(一巻4950円、財布が…)。
（2020.1.5）
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